今野 勇
近年、私たちを取り巻く状況は、少子高齢化、地球温暖化、グローバル化など急激に変化して、環境分野、保健分野、生活分野への対応がますます重要と なっています。とりわけ、環境分野では、地球温暖化の要因である二酸化炭素 削減への対応、健康分野では、高カロリー食や運動不足などによる生活習慣病 の予防と対策、生活分野では、安全と安心が確保された食料そして飲料水など の確保、次世代を担う子供たちの食育などの問題を解決していくことが社会的 な急務となっています。
さて、世界中では 5 万種以上の植物が薬として使われていますが、そのほと んどが野生種です。こうした薬用植物は、私たちの生活に深く結びついている 生物多様性の恵みなのです。この豊かな薬用植物の生物多様性によって、私た ちの健康が守られているといっても過言ではありません。
地球上には「生物多様性のホットスポット」と呼ばれる場所が存在します。 生物多様性は地球上に一様に分布しているわけではなく、特に豊かな場所が存 在するのです。その中でも「人類が優先的に保全の努力を傾けるべき場所」と して選定されるのが生物多様性のホットスポットなのです。
2005年には固 有の植物種が非常に多いことなどから、日本がホットスポットに加えられまし た。日本に自生する植物種約5600種のうち固有種が3分の2を超えていま すが、その中には絶滅危惧種も多く含まれているのです。
近年、わが国でも再び漢方薬が注目を浴びています。東洋医学においては一 種類から数十種類の生薬を配合し、その生薬間の相互作用を利用して、体内の 気、血、水の流れをスムーズにして身体の中の歪みを整えることにより、疾病 の予防、治療に用いてきました。
しかし、生薬の国内自給率は14%に過ぎないこと、資源としての限りがあ ること、海外では一部野生種の乱獲により砂漠化などが起きているのが現状で す。このように世界の多くの薬用植物が危機にさらされています。つまり世界 の生物多様性の減少にもつながります。
私たちが身近な環境において、薬用植物に直接触れることで親しみを持ち、 保全の努力をすることで、薬の資源を守り、更には心身を癒し、人類の文化と して自然の恵みを利用することを伝えていくことができるのです。